すっきりとした暗い背景に描いた、現代的な3Dの人間の脳の医学イラスト。良い習慣で前頭前野と海馬が明るく光り、習慣が根づくにつれて前頭前野の光が赤い大脳基底核へ移っていく前向きな変化を表しています。

羨ましいとなぜ痛む?シェイクスピア四大悲劇『オセロー』、脳は妬みを痛みとして感じた

羨ましいときに胸が痛むのは気のせいではありません。人と比べて後れをとったと感じるとき、脳では痛みに関わる前帯状皮質が働いていました(Science、2009)。同じ痛みも、自分を引き上げれば成長を生む「羨望」に、相手を引きずり下ろせば破滅を招く「妬み」になります。シェイクスピア四大悲劇『オセロー』のイアーゴーをたどりながら、その分かれ道と、羨望を自分の成長の力に変える3ステップをまとめました。

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同じ痛み、違う道:羨望と妬み

  1. 1状況

    同じ痛み、違う道:羨望と妬み · 4コマ漫画 1コマ目(状況): 疲れた顔で机にもたれて座る人。 “おめでとう…(なのに、なぜ胸がチクッとする?)” 友人の昇進の知らせに「いいね」を押したあと、こみ上げるチクッとした痛み。400年前のイアーゴーも、同じ気持ちから物語を始めました。

    おめでとう…(なのに、なぜ胸がチクッとする?)

    友人の昇進の知らせに「いいね」を押したあと、こみ上げるチクッとした痛み。400年前のイアーゴーも、同じ気持ちから物語を始めました。

  2. 2脳科学のしくみ

    同じ痛み、違う道:羨望と妬み · 4コマ漫画 2コマ目(脳科学のしくみ): 2つの神経細胞がつながる瞬間。 “比べる痛みは本物だった” 人に後れをとったと感じるほど、痛みに関わる前帯状皮質が強く働きました。(Science、2009)

    比べる痛みは本物だった

    人に後れをとったと感じるほど、痛みに関わる前帯状皮質が強く働きました。(Science、2009)

  3. 3実践

    同じ痛み、違う道:羨望と妬み · 4コマ漫画 3コマ目(実践): 軽く走る人。 “引きずり下ろさず、自分を引き上げる” 同じ痛みも、自分を引き上げれば羨望、相手を引きずり下ろせば妬みになります。

    引きずり下ろさず、自分を引き上げる

    同じ痛みも、自分を引き上げれば羨望、相手を引きずり下ろせば妬みになります。

  4. 4変化

    同じ痛み、違う道:羨望と妬み · 4コマ漫画 4コマ目(変化): 小さなくり返しで階段をのぼり、目標の旗へ向かう様子。 “羨ましさが次の目標になった” 自分を引き上げる羨望は、ただの感心よりも大きな努力を引き出しました。(PSPB、2011)

    羨ましさが次の目標になった

    自分を引き上げる羨望は、ただの感心よりも大きな努力を引き出しました。(PSPB、2011)

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  1. 1コマ目・状況 絵疲れた顔で机にもたれて座る人 ふきだし「おめでとう…(なのに、なぜ胸がチクッとする?)」
  2. 2コマ目・脳科学のしくみ 絵2つの神経細胞がつながる瞬間 ふきだし「比べる痛みは本物だった」
  3. 3コマ目・実践 絵軽く走る人 ふきだし「引きずり下ろさず、自分を引き上げる」
  4. 4コマ目・変化 絵小さなくり返しで階段をのぼり、目標の旗へ向かう様子 ふきだし「羨ましさが次の目標になった」

📌 要点まとめ

ひとことで答えると: 人と比べて後れをとったと感じるとき、脳では痛みに関わる前帯状皮質が実際に働きます(Science、2009)。

同じ痛みも、自分を引き上げれば成長を生む羨望になり、相手を引きずり下ろせば破滅を招く妬みになります。

💬 「いいね」を押したあとのチクッとした痛み

夜11時、寝る前の習慣でSNSを開きます。大学の同期が昇進の知らせを投稿していました。新しい名刺の写真の下には、お祝いのコメントがずらりと並んでいます。私もハートを押して「おめでとう!」と書きます。本心でした。それなのに、スマートフォンを置いた瞬間、みぞおちのあたりが妙にチクッと痛みます。

「私はこれまで何をしてきたんだろう。あの人はもともと運がよかったじゃない」。そんなことを考える自分が嫌で、またスマートフォンを手に取り、別の人の旅行写真や新居の写真をスクロールします。チクッとした痛みは消えるどころか、かえって大きくなります。

韓国には、この気持ちをぴたりと言い当てることわざがあります。「いとこが土地を買うとお腹が痛くなる」。でも、これは昔の人の気の利いた言い回しにすぎないのでしょうか。脳を撮影した研究は、人と比べたときのチクッとした痛みが、本当に痛みに関わる脳の領域を働かせることを示しました。そして400年前のシェイクスピアは、この痛みが誤った道へ流れたとき、人をどこまで連れて行くのかを一編の悲劇に書き残していました。

📖 シェイクスピア四大悲劇の紹介と『オセロー』の全あらすじへ ↓


🔬 Deep Dive: 同じ痛みは、どうやって羨望と妬みに分かれるのか

シェイクスピア四大悲劇のひとつ『オセロー』で、旗手のイアーゴーは、自分の代わりに副官に昇進した同僚キャシオーを妬みます。そして上官である将軍オセローに、妻のデズデモーナとキャシオーの仲があやしいという疑いを植えつけ、ついには全員を悲劇へと追い込みます。イアーゴーの心の中、そして私たちの脳の中で何が起きているのかをたどってみましょう。

羨ましいと本当に痛むのか?

2009年にScienceに掲載された日本の放射線医学総合研究所の研究チームの実験は、この問いに真正面から答えました。研究チームは参加者に、自分が主人公の短い物語を読んでもらいました。物語には3人の同級生が登場しました。

  • A: 成績・外見・人気で自分より優れていて、夢や関心も自分と似ている同級生
  • B: 自分より優れているが、夢や関心がまったく違う同級生
  • C: 平凡で、関心も自分と違う同級生

参加者がもっとも強く妬みを感じたのはAでした。そしてfMRIで脳を見ると、その気持ちが強いほど前帯状皮質(背側前帯状皮質)の活動が大きくなっていました(Takahashi ほか、Science、2009)。

前帯状皮質は、体が痛むときにも、心が痛むときにもいっしょに反応する領域として知られています。ボールを投げ合うゲームで、ほかの2人が自分にだけボールを回してくれないときにもこの領域が働き、その反応が大きいほどつらいと答えていました(Eisenberger ほか、Science、2003)。ただしこの領域は、葛藤を察知したり注意を調整したりする働きもあわせて担っているため、「比べる痛みは体の痛みとまったく同じ」というより、痛みを処理する回路と重なる場所で処理されていると理解するのが正確です。また、この実験の参加者は19人と多くはなく、一部の神経科学者は、前帯状皮質はさまざまな場面で働く領域なので、この結果を妬みだけのシグナルと読むことには慎重であるべきだと指摘しています。

確認クイズ

実験で、参加者がもっとも強く妬んだ同級生は誰だったでしょうか?

なぜ同期の昇進は、芸能人の成功より痛むのか?

実験でいちばん大きな痛みを引き起こしたのは、ただ優れている人(B)ではなく、自分と同じ道を行く優れた人(A)でした。心理学者エイブラハム・テッサーは、これを自己評価維持モデルで説明しました。人は、身近な人が自分にとって大切な分野で自分より先を行くとき、もっとも強く脅威を感じます(Tesser, Advances in Experimental Social Psychology, 1988)。イアーゴーにとってのキャシオーは、まさにそういう人でした。同じ将軍のもとで、同じ副官の座を争った相手だったのですから。

SNSは、この痛みを毎晩呼び起こします。Facebookを見るだけ(投稿も会話もせず、人の投稿をスクロールするだけ)の使い方を実験と追跡調査で調べた研究では、見るだけの時間が長いほどその日の気分が落ち込み、そのあいだをつなぐ感情がまさにこの比べる痛み、つまり妬みでした(Verduyn ほか、Journal of Experimental Psychology: General、2015)。自分の平凡な一日と、他人のいちばん輝いている瞬間を並べるのですから、前帯状皮質が休む暇はありません。

羨望と妬みは、どこで分かれるのか?

ここまでは、誰もが同じ痛みを感じます。分かれ道はその先です。オランダのティルブルフ大学の研究チームは、人々の実際の経験を集め、比べる痛みが2つの方向へ流れることを示しました(van de Ven ほか、Emotion、2009)。

  • 羨望(良性の妬み、benign envy): 「私もあんなふうになりたい」。痛みが自分を引き上げる方向へ向かいます。相手から学び、もっと努力させます。
  • 妬み(悪性の妬み、malicious envy): 「あの人が引きずり下ろされればいいのに」。痛みが相手を引きずり下ろす方向へ向かいます。相手をけなし、失敗を願わせます。

大切なのは、どちらの感情も最初は同じようにチクッと痛むという点です。羨望が痛くないのではなく、その痛みを使う方向が違うだけなのです。そして方向によって結果はまったく違いました。後続の研究では、羨望を感じた人たちは、相手にただ感心した人たちよりも長く、熱心に課題に取り組みました(van de Ven ほか、Personality and Social Psychology Bulletin、2011)。感心は「すごいな」で止まりますが、羨望は「私もやってみよう」へとつながったのです。ただし、この効果は参加者が努力すれば自分も成長できると信じているときに現れました。成長するのは難しいと信じていると、同じ比較も感心で終わり、努力を引き出しませんでした。

何が方向を分けるのでしょうか。同じ研究チームは、相手の成功が不当だと感じるほど妬みへ流れ、正当だと感じ、自分にもできると感じるときに羨望がもっとも大きくなることを確かめました(van de Ven ほか、Motivation and Emotion、2012)。興味深いことに、こうした判断は痛みの大きさは変えず、痛みが流れる方向だけを変えました。イアーゴーは劇の最初の場面で、キャシオーをこうけなします。「たいした算術家だ。戦場で部隊ひとつ指揮したこともない男さ」(a great arithmetician … That never set a squadron in the field、第1幕第1場)。キャシオーの昇進は不当だと信じた瞬間、イアーゴーの痛みは妬みの道へ入っていきました。

イアーゴーはなぜ止まらなかったのか?

妬みの道へ入った痛みは、どこへ向かうのでしょうか。先のScienceの実験には第2部がありました。研究チームが、妬んでいた同級生Aに不運が降りかかる物語を読んでもらうと、今度は脳の報酬回路である線条体が働きました。日本語でいう「人の不幸は蜜の味」、ドイツ語ではシャーデンフロイデ(Schadenfreude)と呼ばれる喜びです。そして最初に前帯状皮質が強く反応した人ほど、この線条体の反応も大きくなっていました(Takahashi ほか、Science、2009)。

妬みは痛みとして始まり、相手が崩れるときに報酬へと変わります。イアーゴーにとって、キャシオーとオセローの破滅は、その痛みをなだめる報酬だったのかもしれません。シェイクスピアは、イアーゴーがなぜそこまでしたのかを最後まで説明しませんが、イアーゴーは自分をこう紹介します。「おれは見かけどおりの人間じゃない」(I am not what I am、第1幕第1場)。外では忠実な部下、内では妬みの回路にとらわれた人間でした。そしてその道の終わりには、キャシオーとオセローだけでなく、イアーゴー自身の破滅もありました。

オセローはなぜハンカチ1枚で崩れたのか?

『オセロー』には、妬みのほかにもうひとつの感情があります。心理学者のジェロッド・パロットとリチャード・スミスは、2つの感情をこう区別しました(Parrott & Smith, Journal of Personality and Social Psychology, 1993)。妬みは人が持っているものを欲しがる2人のあいだの感情で、嫉妬は自分が持っている大切な関係を奪われるのではないかと恐れる3人のあいだの感情です。イアーゴーはキャシオーを妬み、その妬みを武器にしてオセローの心に嫉妬を植えつけました。

嫉妬が植えつけられたあとのオセローの崩れ方は、確証バイアスとぴたりと重なります。人は、すでに信じていることを裏づける情報はたやすく受け入れ、反する情報は見過ごしてしまいます(Nickerson, Review of General Psychology, 1998)。疑いが植えつけられると、デズデモーナの親切も、ハンカチをなくしたという釈明も、すべて証拠に見えました。イアーゴーの計算どおり、「空気のように軽いつまらないもの」が「聖書の言葉のように確かな証拠」になったのです。ひとりの妬みが、もうひとりの嫉妬を育てて全員を破滅させた物語、それが『オセロー』です。

問い研究が示したこと『オセロー』の場面
羨ましいと本当に痛むのか?人に後れをとったと感じるほど、痛みに関わる前帯状皮質が強く働きました。昇進で後れをとったイアーゴーのチクッとした痛みです。
なぜ身近な人ほど痛むのか?自分と同じ分野で先を行く身近な人が、いちばん大きな痛みを引き起こしました。同じ座を争ったキャシオーです。
羨望と妬みはどこで分かれるのか?同じ痛みも、自分を引き上げれば羨望、相手を引きずり下ろせば妬みになります。相手の成功を不当だと感じると妬みに流れやすくなります。キャシオーを「算術家」とけなしたイアーゴーです。
妬みはどこへ向かうのか?妬んでいた人が不幸になると報酬回路が働き、妬みが強いほど大きくなりました。キャシオーとオセローを崩しながら止まらないイアーゴーです。
なぜハンカチ1枚が証拠になるのか?すでに信じていることだけを選んで見る確証バイアスのためです。ハンカチ1枚で妻を疑ったオセローです。

人を引きずり下ろす代わりに先に手を差し出すことが、なぜ結局自分に返ってくるのか気になる方は利己的な遺伝子なのに、なぜ人を助ける?を、チクッとした考えが頭から離れないときにその考えと距離をとる方法は考えは自分ではないもあわせて読んでみてください。


✅ 解決策: 妬みではなく羨望を選ぶ3ステップ

ステップ1: チクッとした気持ちに名前をつける

胸が痛む瞬間、その気持ちを見ないふりをしたり、「私はなんて心が狭いんだろう」と自分を責めたりしません。代わりに、「ああ、いま私は○○が羨ましいんだな」と声に出すか、書いてみます。

感情に名前をつけるだけで、脳は変わります。感情のこもった顔の写真を見ながら「怒り」「恐れ」のような感情の名前を選んだ人たちは、別の方法で写真を見た人たちより、感情の警報器である扁桃体の反応が小さくなり、そのあいだ右腹外側前頭前野がより活発に働いていました(Lieberman ほか、Psychological Science、2007)。

  • その痛みは、前帯状皮質が送っている本物のシグナルです。あなたが悪い人だからではなく、脳がもともと比べると痛むようにできているのです。
  • 痛みそのものは、羨望と妬みに共通する出発点です。大切なのはその次の一歩です。

ステップ2: 分かれ道で方向を選ぶ

名前をつけたら、その気持ちがどこへ向かっているかを見ます。「あの人がうまくいかなければいいのに」なら妬みの道、「私もあんなふうになりたい」なら羨望の道です。

  • 「本当に不当だろうか?」と自分に問いかけます。 相手の成功を不当だと感じるほど、妬みに流れやすくなりました。その人がかけてきた時間と努力をひとつだけ思い浮かべてみます。イアーゴーは、キャシオーの長所を最後まで見ようとしませんでした。
  • 羨ましい人が持っているもののうち、自分が本当にほしいものをひとつ書き出します。肩書きなのか、認められている感覚なのか、収入なのか、具体的に書きます。
  • そこに近づくために、今週できるいちばん小さな行動をひとつ決めます。羨望は「自分も成長できる」と信じるときに力を発揮しました。小さな行動は、その信念をつくるいちばんの近道です。できれば、その人に直接聞いてみます。「どうやって準備したの?」。痛みの相手が、学びの源に変わる瞬間です。

ステップ3: 胸が痛む環境を減らし、疑いは直接たずねる

比べる痛みは、意志よりも環境で扱うほうが簡単です。

  • SNSの環境を変える: 見るだけの使い方がチクッとした痛みを大きくしました。寝る前の1時間はSNSアプリを開かないように、スマートフォンをベッドから離れた場所に置くか、アプリをホーム画面のフォルダの奥へ移します。
  • 見る代わりに話しかける: SNSを開くなら、スクロールするだけでなく、お祝いを伝えたい人ひとりに直接メッセージを送ります。
  • もし〜なら計画: 「もし誰かを疑う気持ちが生まれたら、自分の考えが間違っているかもしれない証拠を3つ書き出し、うわさを運ぶ人ではなく本人に直接たずねる」。オセローが最後までできなかったことです。
ステップ中心となる行動根拠環境のしかけ
ステップ1 名前をつける「いま私は○○が羨ましい」とひとことで書きます。感情に名前をつけると扁桃体の反応が小さくなりました(Psychological Science、2007)。スマートフォンのメモに「羨ましさ記録」をひとつ作っておきます。
ステップ2 方向を選ぶ相手の努力をひとつ思い浮かべ、ほしいものひとつと今週の小さな行動ひとつを決めます。羨望は感心より大きな努力を引き出し、成功を不当だと感じると妬みに流れました(PSPB、2011;Motivation and Emotion、2012)。決めた行動を、時間といっしょにカレンダーに書き込みます。
ステップ3 環境と直接たずねる寝る前はSNSから離れ、疑いは本人に直接たずねます。見るだけのSNS利用は、妬みを通して気分を落ち込ませました(JEP: General、2015)。寝床からスマートフォンを離し、反対の証拠を3つ書くことをルールにします。

📚 シェイクスピア四大悲劇、なかでも『オセロー』はどんな作品?

四大悲劇をひと目で

ウィリアム・シェイクスピア(1564〜1616)は、1600年から1606年ごろ、30代後半から40代前半にかけて4編の悲劇を立て続けに書きました。イギリスの批評家A. C. ブラッドリーが1904年の『シェイクスピアの悲劇』でこの4作品を中心に論じたことで、「四大悲劇」というまとまりが広く使われるようになりました。4作品の主人公はみな王や将軍、王子ですが、彼らを崩したのは剣ではなく、心の中のひとつの弱さでした。

作品執筆時期(推定)主人公崩した心ひとことあらすじ
ハムレット1600〜1601年ごろデンマーク王子ハムレットためらい父の復讐を誓うものの、考えを重ねるばかりで、すべてを失います。
オセロー1603〜1604年ごろヴェニスの将軍オセロー妬みと嫉妬部下の妬みから始まったうそにだまされ、愛する妻を殺してしまいます。
リア王1605〜1606年ごろブリテンの老王リアへつらいに目がくらんだ判断耳ざわりのいい言葉を言った娘たちに王国を与え、本心を語った末娘を追放します。
マクベス1606年ごろスコットランドの将軍マクベス野心魔女の予言に導かれて王を殺し王になりますが、罪悪感と不安に崩れていきます。

4作品のなかでこの記事が『オセロー』を選んだのは、オセローが2人のあいだの妬みと3人のあいだの嫉妬がどのようにつながるのかを、もっとも鮮やかに見せてくれるからです。『オセロー』は登場人物が少なく、物語が一本の筋で進むので、四大悲劇を初めて読む人にもたどりやすい作品です。

『オセロー』のあらすじ

主な登場人物

人物どんな人か
オセローヴェニス軍の将軍です。北アフリカ出身のムーア人で、実力で認められた人物です。
デズデモーナオセローの妻で、元老院議員ブラバンショーの娘です。
イアーゴーオセローの旗手です。昇進で後れをとって恨みを抱き、すべての陰謀を企てます。
キャシオーオセローが副官に昇進させた若い将校です。
エミリアイアーゴーの妻で、デズデモーナの侍女です。
ロダリーゴーデズデモーナに片思いするヴェニスの紳士で、イアーゴーに金を出して利用されます。
ブラバンショーデズデモーナの父で、元老院議員です。

第1幕・ヴェニス:ひそかな結婚と恨み

自分ではなくキャシオーが副官になったことを恨むイアーゴーは、デズデモーナに片思いするロダリーゴーとともに真夜中にブラバンショーを起こし、娘がオセローとひそかに結婚したと知らせます。ブラバンショーは、オセローが魔術で娘をたぶらかしたと元老院に訴えますが、デズデモーナ自身が現れ、自分の意思でオセローを選んだと語ります。ちょうどトルコ艦隊がキプロス島をねらっているという知らせが入り、オセローは島の防衛を任されて出発し、デズデモーナもあとを追います。ひとり残ったイアーゴーは、オセローとキャシオーをまとめて破滅させる計画を打ち明けます。

第2幕・キプロス:キャシオーの失脚

嵐でトルコ艦隊が壊滅し、戦争は戦わずに終わって、島では祝宴が開かれます。イアーゴーは酒に弱いキャシオーに酒をすすめ、ロダリーゴーにけんかを仕掛けさせます。騒ぎのなかでキャシオーがキプロス総督モンターノーを傷つけると、オセローはキャシオーから副官の地位を取り上げます。イアーゴーは落ち込むキャシオーに、「デズデモーナに復職を頼んでみるといい」とやさしく助言します。すべては計画の一部でした。

第3幕・疑いの種とハンカチ

デズデモーナがキャシオーのために夫に何度も頼むあいだ、イアーゴーはオセローが2人の仲を疑うよう、それとなくほのめかします。「嫉妬にお気をつけください」と言いながら、かえって嫉妬をあおります。オセローは目で見える証拠を求めます。そのとき、デズデモーナが落としたハンカチ、オセローが贈った最初の贈り物をエミリアが拾い、夫のイアーゴーに渡します。イアーゴーはそれをキャシオーの部屋に落としておき、オセローには、キャシオーがあのハンカチを持っていたと告げます。オセローは復讐を誓い、イアーゴーを新しい副官にします。

第4幕・崩れていくオセロー

イアーゴーは、キャシオーが恋人ビアンカの話をして笑う様子をオセローに隠れて見させ、オセローはそれをデズデモーナの話だと思い込みます。ビアンカがそのハンカチを持って現れると、オセローは確信してしまいます。ヴェニスから来た使者ロドヴィーコーが、オセローを本国に呼び戻しキャシオーにキプロスを任せるという命令を伝える場で、オセローは皆の前でデズデモーナを打ちます。その夜、デズデモーナはエミリアの前で悲しい「柳の歌」を歌います。

第5幕・悲劇の夜

イアーゴーはロダリーゴーをけしかけてキャシオーを襲わせ、キャシオーが傷を負うと、口封じのためにロダリーゴーを自ら刺し殺します。同じころ、オセローは眠っているデズデモーナに近づき、ついにその命を奪います。デズデモーナは息を引き取る前に、「誰でもありません、私自身が」と夫をかばいます。駆けつけたエミリアがハンカチの真実を明かすと、イアーゴーは妻を刺し殺し、ロダリーゴーの身から見つかった手紙で陰謀のすべてが明らかになります。オセローは、自分を「賢明ではなかったが、あまりにも深く愛した男」として覚えていてほしいと言い残し、自ら命を絶ちます。捕らえられたイアーゴーは「これからはひとことも話さない」と言って最後まで理由を語らず、キプロスはキャシオーに任されます。

覚えておきたい言葉

  1. 「嫉妬にお気をつけください。それは緑の目をした怪物で、自分が食らう肉をあざ笑うのです」 O, beware, my lord, of jealousy; It is the green-eyed monster which doth mock The meat it feeds on.(第3幕第3場) → オセローに嫉妬に気をつけろと言っているのが、まさに嫉妬を植えつけているイアーゴーだという点が、この場面の恐ろしさです。

  2. 「空気のように軽いつまらないものも、嫉妬する者には聖書の言葉のように確かな証拠になる」 Trifles light as air Are to the jealous confirmations strong As proofs of holy writ.(第3幕第3場) → ハンカチ1枚でオセローを崩せると計算する、イアーゴーの独白です。


📝 ひと目でまとめ

  • 💔 比べる痛みは本物: 同じ道を行く人が先に進むと、脳の前帯状皮質が実際に働きます(Science、2009)。
  • 🔀 同じ痛み、違う道: その痛みで自分を引き上げれば成長を生む羨望、相手を引きずり下ろせば破滅を招く妬みになります(Emotion、2009;PSPB、2011)。
  • 🎭 イアーゴーが進んだ道: キャシオーの成功を不当だと信じたイアーゴーの妬みは、オセローの嫉妬を育て、ついには全員を崩しました。

結論

羨ましいときに胸がチクッと痛むのは、あなたの心が狭いからではありません。脳は、人と自分を比べるとき、痛みを処理する回路をいっしょに働かせるようにできています。問題は痛みではなく、その痛みをどこへ送るかです。イアーゴーはその痛みを人を引きずり下ろすことに使い、その道の終わりには、オセローとデズデモーナ、そしてイアーゴー自身の破滅がありました。

同じ痛みを、羨望として使うこともできます。チクッとした気持ちに名前をつけ、相手がかけてきた努力を思い浮かべ、その人が持っているもののうち自分が本当にほしいものを見つけて、今週一歩を踏み出すことです。そうすれば羨ましさは、自分をむしばむ緑の目の怪物ではなく、次に向かう場所を教えてくれる道しるべになります。

今夜はSNSの代わりに手帳を開き、最近自分をチクッとさせた人の名前の横に「私もやってみたいことひとつ」を書いてみてください。人のうれしい知らせを心から祝える余裕は、そうやって育ちます。そしてその余裕が生まれた日から、明日は少し待ち遠しい日になります。


🙋 よくある質問

Q1. 羨望と妬みはどう違うのですか?

どちらも、人と比べて後れをとったと感じるときのチクッとした痛みから始まります。違いは、その気持ちが向かう方向です。羨望は「私もあんなふうになりたい」と自分を引き上げる方向へ向かい、学びと努力を引き出します。妬みは「あの人が引きずり下ろされればいいのに」と相手を引きずり下ろす方向へ向かいます(van de Ven ほか、2009)。相手の成功を不当だと感じるほど、妬みに流れやすくなりました。いっぽう嫉妬は、自分が持っている大切な関係を奪われるのではないかと恐れる感情で、妬みとも違います(Parrott & Smith, 1993)。

Q2. 人の不幸が少しうれしいときがあります。私は悪い人間でしょうか?

そうではありません。妬んでいた人が不幸になるときに報酬回路が働くのは、実験で観察された脳の反応です(Science、2009)。その反応を感じること自体は、脳の自然な働きです。大切なのは、その喜びを追って行動するかどうかです。イアーゴーはその喜びを得ようとして人を崩しました。その気持ちに気づき、名前をつけるだけでも、イアーゴーとは違う道に立つことになります。


📚 参考文献

  1. Shakespeare, W. (c. 1603–1604). Othello, the Moor of Venice. Folger Shakespeare Library オンライン版(folger.edu)で原文を確認。
  2. Takahashi, H., Kato, M., Matsuura, M., Mobbs, D., Suhara, T., & Okubo, Y. (2009). When your gain is my pain and your loss is my gain: Neural correlates of envy and schadenfreude. Science, 323(5916), 937–939. doi:10.1126/science.1165604
  3. Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D. (2003). Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302(5643), 290–292. doi:10.1126/science.1089134
  4. Tesser, A. (1988). Toward a self-evaluation maintenance model of social behavior. Advances in Experimental Social Psychology, 21, 181–227. doi:10.1016/s0065-2601(08)60227-0
  5. Verduyn, P., Lee, D. S., Park, J., Shablack, H., Orvell, A., Bayer, J., Ybarra, O., Jonides, J., & Kross, E. (2015). Passive Facebook usage undermines affective well-being: Experimental and longitudinal evidence. Journal of Experimental Psychology: General, 144(2), 480–488. doi:10.1037/xge0000057
  6. van de Ven, N., Zeelenberg, M., & Pieters, R. (2009). Leveling up and down: The experiences of benign and malicious envy. Emotion, 9(3), 419–429. doi:10.1037/a0015669
  7. van de Ven, N., Zeelenberg, M., & Pieters, R. (2011). Why envy outperforms admiration. Personality and Social Psychology Bulletin, 37(6), 784–795. doi:10.1177/0146167211400421
  8. van de Ven, N., Zeelenberg, M., & Pieters, R. (2012). Appraisal patterns of envy and related emotions. Motivation and Emotion, 36(2), 195–204. doi:10.1007/s11031-011-9235-8
  9. Parrott, W. G., & Smith, R. H. (1993). Distinguishing the experiences of envy and jealousy. Journal of Personality and Social Psychology, 64(6), 906–920. doi:10.1037/0022-3514.64.6.906
  10. Nickerson, R. S. (1998). Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises. Review of General Psychology, 2(2), 175–220. doi:10.1037/1089-2680.2.2.175
  11. Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428.

💭 あなたに聞いてみたいこと

最近、あなたの胸をいちばんチクッとさせた知らせは何でしたか?その人が持っているもののうち、あなたが本当にほしいものは何ですか?コメントに「私もやってみたいことひとつ」を書いてみてください。チクッとした痛みが、妬みではなく羨望になる最初の一文になるかもしれません。


⚠️ 免責事項

この記事はシェイクスピアの作品と学術研究にもとづく一般的な情報であり、医学的・心理学的な診断や治療に代わるものではありません。妬みや嫉妬、疑いが日常生活や人間関係を大きく損なうほど強い場合は、専門家にご相談ください。作品の引用文の日本語訳は、この記事で意味を生かして訳したものです。脳の領域の役割は研究によって解釈が異なることがあるため、本文では確認された範囲で説明しました。研究で使われるbenign envyとmalicious envyを、この記事では「羨望」と「妬み」と訳しています。

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情報の基準日:。その後の新しい研究により内容が変わる可能性があります。

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