ダイエットも先延ばしにしたこともすぐ投げ出してしまう理由――意志ではなく、体のエネルギーの20%を使う脳のせいだった

ダイエット中なのに、結局また夜食を頼んでしまいました。明日やろうと先延ばしにした仕事が、今日もそのまま残っています。そのたびに、自分はどうしてこんなに意志が弱いのだろうと自分を責めたことはありませんか。実は、このくり返される選択は、意志の問題ではない可能性が高いのです。

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あきらめるのは意志のせいじゃない

  1. 1問題

    肉、卵、野菜がのった皿とフォーク、ナイフ

    結局また夜食を…

    ダイエットも先延ばしにしたことも、すぐ投げ出してしまう自分を責めてしまいます。

  2. 2しくみ

    うなだれた疲れた人と、ほとんど空になった電池

    エネルギーを節約する脳

    脳は体重の2%なのにエネルギーの20%を使うので、いつも節約を選びます。

  3. 3実践

    一段ずつ上る階段と、てっぺんの旗

    始める壁を低く

    最初の一歩をごく小さく、5秒ルールですぐに体を動かします。

  4. 4変化

    穏やかな波が流れる脳と、ゆっくり打つ心臓

    自分を責めるかわりにほほえみを

    脳が使うエネルギーそのものを管理すると、選択が変わります。

ダイエット中なのに、結局また夜食を頼んでしまいました。明日やろうと先延ばしにした仕事が、今日もそのまま残っています。そのたびに、自分はどうしてこんなに意志が弱いのだろうと自分を責めたことはありませんか。実は、このくり返される選択は、意志の問題ではない可能性が高いのです。

意志が弱いからではなく、脳がエネルギーを節約しようと自分をだましていたのだ

出典:『自分らしく生きたくて、脳科学を読みます』 出典:『自分らしく生きたくて、脳科学を読みます』

脳は体重のわずか2%ほどしかありませんが、私たちの体が使う全エネルギーの20%近くをひとりで消費する器官です。それだけに脳にとって、エネルギーを節約することは生存に直結する問題です。だから脳は、できるだけ新しい決断や複雑な思考、慣れない挑戦を避け、慣れた楽なほうへと私たちをそっと押しやります。

問題は、この過程が私たちの気づかないうちに起きるという点です。自分では合理的に判断して選んだと信じていても、実際には脳がエネルギーの消費の少ないほうへすでに方向を決めておき、もっともらしい理由をあとからつけ足していることが多いのです。今日は、この脳のエネルギー節約のくせが、私たちの選択と後悔にどう関わっているのかを、ひとつずつ見ていきましょう。

脳は体の2%なのに、エネルギーは20%を使う

脳がこれほど多くのエネルギーを使うのは、神経細胞のひとつひとつが絶えず信号をやりとりしているからです。考える、覚える、感情を感じる、そのすべての過程が、ブドウ糖を燃料に動く電気信号です。そのため脳は、体の中でもっとも「高くつく」器官とも呼ばれます。

人類は長いあいだ食べものが足りない環境を生きのびてきたので、脳はエネルギーを節約する方向へ進化してきました。むだにエネルギーを使う個体より、効率よく節約する個体のほうが生き残るのに有利だったからです。いまの私たちが食べものの心配なく暮らしていても、脳のこの古い節約のくせは、そのまま残っています。

「めんどうだ」と感じた瞬間、脳はもう計算を終えている

運動に行かなければいけないのに体が重く感じたり、勉強を始めなければいけないのにやけに集中できなかったりする日があります。そんなとき脳の中では、この行動にどれだけのエネルギーが必要で、それに比べて報酬はどれくらいかを、一瞬で天びんにかけています。心理学では、これを努力に対する報酬をはかる過程と説明します。

問題は、この天びんがかなり脳びいきにはかられるという点です。運動や勉強のように結果があとになってあらわれることは、エネルギーの消費はいますぐなのに報酬は遠く感じられるので、脳にとっては損のように計算されます。反対に、スマホを見たり夜食を食べたりすることはエネルギーも少なくてすみ、報酬はすぐなので、脳は簡単にそちらを選んでしまいます。

結局、「今日はやけにやりたくない」と感じるその瞬間は、感情ではなく、脳がすでに損得の計算を終えた結果に近いのです。意志で押さえつけようとしても負けつづけているように感じる理由は、ここにあります。

出典:『自分らしく生きたくて、脳科学を読みます』 出典:『自分らしく生きたくて、脳科学を読みます』

意志が弱いのではなく、脳が効率を選んだだけ

かつては、意志力を筋肉のように、使えば使うほどすり減っていく資源と見る考え方が広まっていました。この見方どおりなら、一日じゅう我慢してふんばっていると、夜には意志力が底をついて、結局くずれてしまいます。実際に多くの人が、夜になるとダイエットがくずれたり、我慢していたことをあきらめたりする経験をしています。

けれども最近では、この現象を単なる意志力の枯渇ではなく、脳が一日じゅういくつもの決断をくだしてたまった疲れを減らすために、より楽な選択肢へ切り替える過程と見る考え方が力を得ています。つまり、意志が消えたのではなく、脳が資源を節約するために自分でシャッターを下ろしているほうに近い、ということです。

だから夜遅くに夜食を我慢できなかったり、先延ばしにした仕事をまた先延ばしにしたりするのは、人格や根性の問題ではありません。一日のあいだに脳がくださなければならなかった大小の決断が積み重なり、残ったエネルギーを節約しようとする脳の自然な反応である可能性が高いのです。

後悔は、なぜいつもあとからやってくるのか

脳がエネルギーを節約する選択をするときは、目の前の楽さだけを計算に入れます。数日後、数週間後にその選択がどんな結果をもたらすかは、その瞬間の計算にはあまり反映されません。だから選ぶ瞬間には楽なのに、時間がたって目標から遠ざかったことに気づいたとき、ようやく後悔が押し寄せてくるのです。

これは、脳の中でふたつのシステムが別々に働いているからだと考えるとわかりやすいでしょう。すぐの楽さを求めるシステムと、長期的な目標を計算するシステムが別々に動き、ぶつかりあいます。エネルギーを節約しようとする即時のシステムのほうがたいてい先に、より強く反応するので、長期的な目標を担う側が、遅れて後悔という信号を送っているわけです。

このしくみがわかれば、後悔するたびに自分を追いつめるかわりに、そもそも脳がエネルギーをあまり使わずによい選択ができるよう、環境を変えてあげる方向から取り組めます。

脳の節約本能を逆手にとる方法

「やる気が出たから行動するのではない。 まず体を動かして、はじめて脳がやる気を出すのだ。」

まずできるのは、決断そのものを減らすことです。毎回、今日は運動しようかどうしようかと迷うかわりに、決まった時間に必ずやると前もって決めておけば、脳が毎回損得を計算する過程そのものを減らせます。決断の回数が減れば、そのぶんエネルギーの消費も減り、脳が抵抗するすきが小さくなります。

ふたつめは、始めるときのエネルギーの壁をできるだけ低くすることです。運動着を前もって出しておく、本を開いて最初のページだけ読む、というふうに最初の動作をごく小さくすると、脳はこのくらいならエネルギーはたいしてかからないと判断し、抵抗なく始められます。いったん始めてしまえば勢いがついて、続けるのがずっと楽になります。

みっつめは、脳が使えるエネルギーそのものを管理することです。睡眠が足りなかったり血糖値が乱高下したりする日は、脳がいつもより疲れやすく、楽な選択のほうへ傾きやすくなります。十分な睡眠と規則正しい食事を守るだけでも、脳が無理にエネルギーを節約しようとする瞬間は目に見えて減ります。

よっつめは、5秒ルールを使って側坐核を刺激することです。脳のやる気を担う部位である側坐核(報酬回路)は、考えるだけでは決して活性化しません。体の動き(出力)が始まって、はじめてドーパミンを分泌し、やる気をつくり出すのです。やりたくないこと(勉強、運動、掃除)があるときは、感情をわきに置いて「5、4、3、2、1」と数え、まず体を3分間動かします。

いつつめは、ほほえむ練習です。気分がふさいでいるとき、わざとでも口角を上げて15秒以上キープし、脳をだますのです。たとえば今日は少し寝不足なら、起きてすぐに「今日は長い一日になりそうだ」と言うのではなく、「よく眠れた。今日はよく晴れているし、いいことがありそうだ」とほほえみながら脳をだますのです。

今日からは、自分を責めるかわりにこう変えてみましょう

何かをまた先延ばしにしたり、我慢しようとしたことを我慢できなかったりしたとき、まず浮かぶのが「どうして自分はこうなんだろう」という思いなら、これからは少し違う見方をしてもかまいません。その瞬間は意志が足りなかったのではなく、脳がエネルギーを節約しようと、いちばん楽な選択肢を選んでくれた結果である可能性が高いのです。

もちろん、だからといってすべての選択を脳のせいにして、何もしなくていいという意味ではありません。ただ、自分を叱りつけるよりも、脳がエネルギーを節約しながらもよい方向へ動けるように環境と習慣を設計するほうが、ずっと現実的で長続きする方法です。小さな壁を低くし、決断を減らし、体のエネルギーをしっかり満たしてあげるだけでも、後悔する選択の回数は目に見えて減っていくはずです。

意志のせいにして自分を追いつめていたなら、この脳のエネルギー節約の話を保存しておくか、同じ悩みをもつ人にシェアしてみてください。

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