脳の健康(脳の可塑性、運動習慣、複利効果)

50代の脳が MRI では80代のように見えることがあると初めて聞いたとき、正直、背筋が寒くなりました。脳は生きてきたやり方をそのまま記録していること、そしてその記録はある日突然つくられるものではないこと。それが、私が毎朝ランニングシューズのひもを結ぶ本当の理由です。

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脳の健康の複利効果

  1. 1問題

    机の前で浅く息をする人と、頭上で鳴る警報ベル

    50代の脳が80代のよう?

    脳は生きてきたやり方をそのまま記録します。その記録は一晩ではできあがりません。

  2. 2しくみ

    2つの神経細胞が枝を伸ばしてつながる瞬間

    使ったとおりに変わる

    脳の可塑性と報酬回路のおかげで、小さなくり返しが回路を組み直します。

  3. 3実践

    軽やかに走る人と動きの線

    意志ではなく設計

    運動習慣は意志ではなく設計の問題です。まずは運動靴のひもを結んでおきます。

  4. 4変化

    一段ずつ上る階段と、てっぺんの旗

    時間が積み重なる

    今日の一歩が複利のように積み重なり、脳の未来を変えます。

50代の脳が MRI では80代のように見えることがあると初めて聞いたとき、正直、背筋が寒くなりました。脳は生きてきたやり方をそのまま記録していること、そしてその記録はある日突然つくられるものではないこと。それが、私が毎朝ランニングシューズのひもを結ぶ本当の理由です。

脳の可塑性を、いますぐ使うべき理由

一般に、脳は年をとると自然に固くなると言われています。けれど学んで経験してみると、これは半分正しくて、半分間違っていました。

脳の可塑性(Brain Plasticity)という考え方があります。脳の可塑性とは、外からの刺激や繰り返しの経験によって、脳の神経のつながりが実際に形を変えたり、新しくつくられたりする力のことです。簡単に言えば、いまこの瞬間も私の脳は、私が何を繰り返すかによって物理的に変わっている、ということです。

問題は、この脳の可塑性が年をとるにつれて少しずつ落ちていくことです。子どもの脳は大人よりずっとしなやかなので、幼いころにできた報酬回路は、はるかに簡単に、速く根づきます。反対に、大人になってから新しい習慣を脳に刻もうとすると、同じ刺激をずっと長く、ずっと多く繰り返さなければなりません。出典:NIH / PubMed Central――習慣形成と脳の可塑性の研究

だから私は最近、20代でランニングを始めて本当によかったとよく思います。あのころは軽い気持ちで始めたことでしたが、振り返ってみれば、その選択が脳に一本の道を通していたのです。習慣が根づいてからは、むしろ運動を休んだ日のほうが体がだるく、何かが欠けているように感じるようになりました。脳がすでにその刺激を「ふだんの状態」として受け止めていたのです。

  • 脳の可塑性は、繰り返しの刺激で神経のつながりを実際に変える
  • 報酬回路は、若いほど簡単に速くつくられる
  • 習慣が根づくと、脳はその行動を「初期設定」として扱う
  • 大人になってからも変化は可能だが、そのぶん多くの繰り返しが必要

まとめ:脳の可塑性は年をとるほど落ちていくため、一日でも早く運動の習慣を脳に刻んでおくことが、圧倒的に有利です。

運動の習慣は、意志ではなく設計の問題だった

運動が続かないのは意志が弱いからだとよく言われます。私も一時期はそう思っていました。けれど実際にぶつかってみると、これは意志の問題ではなく、そもそも人間の脳がそういうふうにできているからでした。

人類は何百万年ものあいだ、狩猟採集民として暮らしてきました。生きるために仕方なく一日10〜15km歩いたり走ったりしていましたが、それ以外の時間はエネルギーを節約するため、できるだけじっとしていました。研究によれば、その「座っている時間」は一日10時間にも及んだそうです。つまり、必要がなければ動かないのが私たちの本能なのです。ですから、運動が嫌いなのは怠けているからではなく、ごく正常な反応なのです。

私も仕事から帰ると、正直、運動しようとしてもなかなか腰が上がりません。そこで選んだのが、朝の出勤前の運動でした。最初は2km、12分ほどの短いランニングから始めました。ところが、これが予想外の効果を生みました。やりたくない気持ちに打ち勝ってやり遂げたという達成感が、一日の始まりの温度そのものを変えてくれたのです。

無症候性脳梗塞(Silent Stroke)という考え方も、ここであわせて考えておく必要があります。無症候性脳梗塞とは、自覚症状がないまま脳の血管が少しずつ詰まっていく状態のことで、MRI を撮ってはじめて見つかります。運動不足、飲酒、喫煙、肥満が続くと、こうした痕跡が脳に少しずつ積み重なっていきます。50代なのに MRI が70〜80代のように見える場合が実際にあるのは、まさにこのためです。出典:WHO――身体活動と健康のファクトシート

まとめ:運動ができないのは意志が足りないからではなく人間の本能の問題なので、意志に頼るかわりに、環境とルーティンを先に設計すべきです。

複利効果――時間の濃さが変わる瞬間

朝に運動をしてから出勤の準備をしていると、不思議な感覚が生まれます。もうひとつやり遂げたのだから、残りの時間をむだにはできない、という感覚です。1kmを6分で走るとすれば、2kmはたった12分です。ところが、仕事帰りに SNS をぼんやり眺めると、30分は当たり前のように溶けてしまいます。この対比を体で経験してから、私は時間の見方が変わりました。

ふたりの一日が同じ24時間でも、その時間の濃さと深さは違います。朝、運動で脳を目覚めさせて始めた一日と、まだ目覚めきらない状態で習慣もなく始めた一日は、表面上は同じ時間に見えても、積み重なる密度が違うのです。私はこれが、金融でいう複利効果と変わらないと思っています。

HbA1c(ヘモグロビンA1c)という数値があります。HbA1c とは、最近2〜3か月の平均的な血糖値を反映する指標で、一日の血糖ではなく「積み重なった時間の結果」を示します。脳の健康もこれと似ています。今日の一回の運動がすぐに何かを変えるわけではありませんが、その一日一日が積み重なると、MRI の画像にそっくり残るのです。

習慣が身につくまでには平均66日かかるという研究結果があります。その66日のあいだ、脳は毎日それを新しい刺激として受け止めるため、毎回意識的な努力が必要です。けれどその分岐点を越えると、脳は運動を「選択肢」ではなく「初期設定」として処理しはじめます。そしてその初期設定ひとつが、ほかのよい習慣へとつながる足がかりになります。私の場合、朝のランニングが根づいてから、睡眠時間の管理や食事にも自然と気を配るようになりました。ひとつの成功体験が、次の成功体験へと広がっていくしくみです。

まとめ:運動の習慣がつくる時間の密度の差は複利のようにふくらみ、66日の繰り返しが、脳の初期設定を変える分岐点になります。

よくある質問

運動の習慣は、本当に脳の健康に影響しますか?

一般に運動は体力や体重の管理のためのものと考えられていますが、私が学び経験してきたかぎりでは、脳への影響はそれよりずっと直接的です。運動不足、肥満、飲酒といった生活のパターンは、脳の血管に無症候性脳梗塞の痕跡を残し、それは MRI で実際に確認できます。脳の健康が崩れると、記憶力だけでなく、性格、感情のコントロール、人間関係まで変わってしまうことがあります。

会社員で、どうしても運動する時間がありません。どうすればいいですか?

私も最初は仕事帰りの運動を試みましたが、そのたびに失敗しました。時間がないのではなく、仕事のあとはすでに脳も体も疲れていて、決断を避ける状態になっているのだと、あとから知りました。朝の出勤前に2km、12分のランニングから始めたことが、いまも続いています。SNS に使う30分より、ずっと短い時間です。

習慣が根づくまで、どのくらいかかりますか?

研究によれば、平均66日かかります。よく言われる21日とは違い、実際にはそれよりずっと長い繰り返しが必要です。そのあいだは毎回意識して選ばなければならないのでつらく感じますが、分岐点を越えると、むしろやらないほうが落ち着かない状態になります。

軽度認知障害とは何ですか?認知症とは違うのですか?

軽度認知障害(MCI, Mild Cognitive Impairment)とは、記憶力などの認知機能が一定以上低下しているものの、まだ日常生活に大きな支障はなく、認知症の診断基準には届かない段階のことです。問題は、軽度認知障害の人のおよそ半数が認知症へ進むということです。この段階で、運動の習慣がある人とない人とでは、その後の経過が実際に違ってきます。

おわりに

脳は人生を記録します。今日踏み出した一歩も、今日目をそらした一歩も、すべて脳に残ります。私はそのことを頭でわかっているだけでしたが、いまは毎朝ランニングシューズを履きながら、体で確かめているところです。

最初は、やりたくない気持ちに打ち勝つことから始まります。その小さな達成が一日の密度を変え、その密度が積み重なると、5年後、10年後の MRI に違う画像として現れます。意志に頼るより、小さなルーティンをひとつ設計すること。それが、私が経験で確かめた方法です。いますぐ2kmから始めても十分です。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=_b7Ua3uZiZs

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